1.4. 仕訳はなぜ左と右に分かれるのか
簿記とは、つまるところ、モノの数え方の話です。
その歴史は古く、13世紀初頭に実務の中で誕生・発展してから現在に至るまで、経済活動の発展と共に広く世の中の人に知られ、数百年たった今でもなお、なくてはならないものです。
この章を読み終わるころには、以下の2つがざっくりとわかるようになります。
- なぜそもそも勘定は左と右にわかれるのか?
- なぜそもそも仕訳は左と右にわかれるのか?
これから 2頭の羊が移動する様子を「 3つの数え方 」で数えていきます(スペースの都合上、2頭だけですが、これが20頭など、指だけでは数えられないような規模だと考えてください)。
1. 一般的な数え方、2. 単式簿記の数え方、3. 複式簿記の数え方、この3つです。
数え方は3つ異なりますが、羊の移動を同じにすることで、その数え方の違いをみていきます。
しかもここでは、簿記が単なる数え方の話ということを強調するために、あえて数字を使わず、 石を使って数えます。
石を使って数えるのは、複式簿記の考え方が数字が発明されていなかったとしても説明できるからです。
人類が数字を発明するずっと昔、ヒトは指の数以上の数を数えるとき石を使って数えていました(フィクションです)。数字がなかった時代に、ヒトがいかにして放牧した羊を管理できたのかという話です。
単式簿記と複式簿記自体の違いなんて、はっきりいってどうでもよい、と思うかもしれません。
(実際に私はどうでもいいと思っていました、ごめんなさい)
簿記(仕訳の左と右)でやっていることが本質的になんなのかがわかるようになります。ここはぐっと堪えてください。
この数え方の考え方が理解できれば、あとは勘定科目という引き出しをできるだけ多く覚え、取引をその引き出し(勘定科目)に正確に納めるだけ といっても過言ではありません。
よく引用されますが、かの文豪ゲーテも著書の中で複式簿記について語らせています。
複式簿記が商人にあたえてくれる利益は計り知れないほどだ。
人間の精神が産んだ最高の発明の一つだね。
立派な経営者は誰でも、経営に複式簿記を取り入れるべきなんだ
まずは羊の移動を確認
まず先に、2頭の羊の移動する様子だけ、確認しましょう。
この2頭が下の緑の敷地内を合計3回移動します。
1. 一般的な数え方
まず、最も一般的な数え方を確認します。
この数え方では、 羊が増えたり、減ったりしたとき、それに応じて、石の数も増やしたり、減らします。
羊の数に応じて手元の石が増減するため、直感的に理解しやすい数え方です。
それでは1つ目の数え方をみてみましょう。
この数え方では、羊が減ったら、それに対応させて石も減らします。
羊の数と石の数が一致するので、直感的な数え方であり、簿記を知らないひとの多くはこの方法で数えるはずです。
2. 単式簿記の(勘定を使った)数え方
次に、勘定を使った数え方を確認します。
勘定を使えば、羊の移動記録を残すことができます。
この数え方では、あらかじめ 勘定の左と右で増加を記録する場所と減少を記録する場所を決め ておき、羊が増えても減っても、 石を加えていく(石を取り除かない!)数え方です。
2つ目の数え方をみてみましょう。
これを解決するのが複式簿記の数え方です。
3. 複式簿記の数え方
最後に、複式簿記の数え方を確認します。
1つの移動に対して、同時に2つの石を使って記録していく方法です。
といっても難しいことはなく、自分の羊と他人の羊を区別できるように、さらに勘定を増やして数えるだけです。
最初は目に見える「羊」だけをカウントの対象にしましたが、それに加えて「所有権(だれのものか)」をカウントの対象に加えるだけです。
もう一度、仕訳としてみるとどうなるか、勘定とともに、確認してみましょう。
4. 先人の工夫
先ほど、自分(の羊)勘定の増加を羊勘定の増加と逆にすることが先人の工夫といいました。これを解説します。
自分勘定と他人勘定の増加を羊勘定の増加と逆にしたので、自分勘定と他人勘定は右側が残高になります。
残高だけを集計すれば、左側と右側の残高が一致していることが確認できます。
このように残高を集計すれば、記録が正確になされたことが確認できます。
これこそが仕訳が左右に分かれる理由であり、先人の知恵です。
といっても、仕訳の段階で左側と右側の石の個数(仕訳でいえば金額)が一致し、正確に転記できていれば、これは当然の結果です。
いまでこそ「仕訳」をいれれば元帳への転記や残高試算表の作成、貸借対照表と損益計算書はボタン1つでほぼ自動でできあがります。 しかし、ほんの数十年前までは「紙」を使って記録をとっていたので、ある勘定には転記しても、他の勘定には転記が漏れた、なんてことはよく起きたのでしょう。 そのため、帳簿の構造上、この「転記の正確性」を担保しなければなりませんでした。 そのような背景から、この複式の数え方が発展し、現在でも使われています。
1.4.5. まとめ
ざっとまとめます。
冒頭で2つの問いに答えられるようになるとお伝えしました。
それにより、 いくつ増えたのか、いくつ減ったのか、その結果いくつ残ったのかを知ることができます。
かつ、それらの残高を集計すれば、 記録が正確になされたことが残高試算表の左右の金額の一致で確認できるからです。
会計では、資本(元手)と利益も区別することが必要なため、自分のものをさらに2つにわけます。
これが「資本」と「利益(収益-費用)」です。
つまり、会計では「5つの要素」に分かれます。
ここまでが「会計の基礎知識」です。 もう一度、複式簿記についてのゲーテの言葉をかみしめつつ、次に進みましょう。
複式簿記が商人にあたえてくれる利益は計り知れないほどだ。
人間の精神が産んだ最高の発明の一つだね。
立派な経営者は誰でも、経営に複式簿記を取り入れるべきなんだ