補足 - 3分法と売上原価対立法と分記法の違い
本書では、商品売買の記録方法として「3分法」を前提に解説しました。 商品売買の記録の方法には、3分法と売上原価対立法と分記法などさまざまあります。 この3つの違いをざっくりと解説します。 いずれは日商簿記検定3級と2級を受験される予定であれば学習が進むにつれ、苦手になりやすく、本書でも「Part7 決算」の理解に役立つからです。 ここは本当に興味がある方だけみてください。 本コンテンツの想定している「初学者の方」にはあまり必要でない可能性があります。
結論からいえば、どの方法でも利益の金額は変わりませんし、手元の在庫残高が貸借対照表の「商品」勘定として記録されることも変わりません。 違いがあるのは、損益計算書の費用と収益の金額とその記録のタイミングです。
たとえば、店主が1人でやっているような八百屋であれば、「3分法」で記録することになるでしょう。 それはシステムを入れるほど事業規模が大きくなく、店主が仕入も売上げも見ていればある程度感覚で損益は計算できるし、期中に時間もお金もかける必要性が乏しいからです。
また、多種多様な商品について正確に、月次や週次決算でタイムリーに損益状況を把握したい大企業では、「売上原価対立法」で記録するかもしれません。 決済や在庫管理などのシステムを導入すれば、仕入れの都度、全商品アイテムの仕入原価と数量を記録し、売上げの都度、正確にその売上金額と仕入原価が計算できるからです。
一方で、「分記法」というのは、費用と収益を総額で把握しないで、あくまでその純額である利益金額を収益とする記録方法です。 これは一般に有価証券の売買取引の記録方法で用いられる記録方法です。 有価証券の売買は本書でも扱いました。 現金で受け取った売却代金を収益、その購入原価を費用に振り替えるとはしないで、あくまで購入原価と売却価額の差額だけを損失または利益としたと思います。 このように、金融取引を記録するのに向いています。 これはたとえば、商品売買取引を仲介するような場合に、その手数料だけを収益として記録することに似ています。
記録の手間やその目的によって、記録の方法の考え方が複数あります。
つまるところ簿記とは、「モノの数え方」の話であり、それはどのタイミングで、いくらが適正なのかという話です。 世の中の物事には様々な見方があるのだな程度にここは読み進めましょう。
下の用語説明は初見ではよくわからないと思うので、とばしても大丈夫です。
- 3分法
商品の売買について、仕入(費用)勘定、売上(収益)勘定、商品(資産)勘定の3つの勘定で処理する方法 - 売上原価対立法
商品を仕入れたときは商品(資産)勘定で処理し、商品を販売したときに売上(収益)勘定で処理するとともに、その商品の原価を商品(資産)勘定から売上原価(費用)勘定に振り替える方法 - 分記法
商品の売買について、商品(資産)勘定、商品売買益(収益)の2つの勘定で処理する方法
取引の概要を確認
ということで前置きが長くなりましたが、以下の取引の流れを前提に、3つの記録方法の違いを確認します。
3つの会計処理を確認
この取引の流れに「仕訳」と「残高試算表」を加え、3つの記録方法を比べてみます。
仕訳がつくと「うっ」となりますが、簿記はつまるところ、数の数え方の話ということをもう一度思い出してください。石がリンゴ変わり、数字がちょっとだけ加わるだけです。 参考:仕訳はなぜ左と右で数えるのか
まとめ
決算整理を行えば、3つの方法の「商品」と「利益」は同じになります。
違いがあるのは、費用と収益を総額または純額で記録するのかとその記録のタイミングです。
- 総額・純額
・3分法と売上原価対立法は総額で記録
・分記法は売上と売上原価を純額で記録 - 記録のタイミング
・3分法は、まだ売れてもいないうちに、費用に計上し、その代わり、売れたときの売上原価への振り替えを行わない
・分記法と売上原価対立法は、商品売上時に記録