2.8. 記帳方法
1. 3分法と売上原価対立法と分記法の違いについて
これまで、商品売買の記録方法として「3分法」を前提に解説してきました。
商品売買の記録の方法には、「3分法」と「売上原価対立法」と「分記法」などさまざまあります。
この章では、この3つの違いをざっくりと解説します。
いずれは日商簿記検定3級と2級を受験される予定であれば学習が進むにつれ、気になってくるでしょうし、
後述する決算整理の理解に役立つからです。
ただし、ここの話は興味がある方、必要が出てきたときに読むだけで問題ありません。
簿記3級では、3分法が出題のメインであり、ほとんどの人にとってあまり必要ない内容かもしれません。
結論からいえば、どの方法でも適正な利益の金額は変わりませんし、
手元の在庫残高が貸借対照表の「商品」勘定として記録されることも変わりません。
違いがあるのは、損益計算書の費用と収益の金額とその記録のタイミングです。
どんな企業が3分法を使うのか
たとえば、店主が1人でやっているような八百屋であれば、「3分法」で記録することになるでしょう。
それはシステムを入れるほど事業規模が大きくなく、店主が仕入も売上げも見ていればある程度感覚で損益は計算できるし、手間も費用もかける必要性が乏しいからです。
また、多種多様な商品について正確に、月次や週次決算でタイムリーに損益状況を把握したい企業(コンビニなどでも)では、「売上原価対立法」で記録するかもしれません。
決済や在庫管理などのシステムを導入すれば、仕入れの都度、全商品アイテムの仕入原価と数量を記録し、売上げの都度、正確にその売上金額と仕入原価が計算できるからです。
「分記法」は、費用と収益を総額で把握しないで、あくまでその純額である利益金額を収益とする記録方法であり、
これは一般に有価証券の売買取引の記録方法で用いられる記録方法です。
有価証券の売買は本書でも扱います。
現金で受け取った売却代金を収益、その購入原価を費用に振り替えるとはしないで、
あくまで購入原価と売却価額の差額だけを損失または利益としたと思います。
このように、金融取引を記録するのに向いています。
これはたとえば、商品売買取引を仲介するような場合に、その手数料だけを収益として記録することに似ています。
このように、記録の手間やその目的によって記録の方法の考え方が複数ありえます。
簿記とは、「モノの数え方」の話であり、それはどのタイミングで、いくらが適正なのかという話です。
前置きが長くなりましたが、3つの違いを確認しましょう。
取引の前提
前期に、資本金400で事業を開始し、リンゴ1つを100で仕入れ現金を支払い、それを在庫として保有
商品仕入
期中に仕入原価300でリンゴ3つを仕入れ、現金支払(単価は1つあたり100)
商品売上
期中に販売価額400でリンゴ2つを売上げ、現金受領(販売単価は1つあたり200)
期末
期末のりんごの在庫は2つ(仕入原価は1つあたり100)
商品仕入
期中に仕入原価300でリンゴ3つを仕入れ、現金支払(単価は1つあたり100)
商品売上
期中に販売価額400でリンゴ2つを売上げ、現金受領(販売単価は1つあたり200)
期末
期末のりんごの在庫は2つ(仕入原価は1つあたり100)
3つの会計処理を確認
この取引を3つの方法で記録するとどうなるかを同じ取引内容を使って同時にみていきましょう。
記録方法の説明は最後にまとめます。
期首
まず、期首に仕入原価100のリンゴを1つもっていたときの資産・純資産は3つの方法どれも同じです。
期首なので費用・収益はまだゼロです。
商品仕入
仕入れの処理を確認しましょう。
3分法では、まだ売れていないのですが、仕入れたときに費用の「仕入」勘定を増やします。
その結果、費用が300と記録されたため、利益がマイナスになったことに注目してください。
売上原価対立法と分記法では、仕入れたときは資産の「商品」勘定を増やします。
この2つの方法は、「3分法」とは異なり、仕入れ商品を手元の資産(財産)として記録するため、直感的に理解しやすいと思います。
3分法では、まだ売れていないのですが、仕入れたときに費用の「仕入」勘定を増やします。
その結果、費用が300と記録されたため、利益がマイナスになったことに注目してください。
売上原価対立法と分記法では、仕入れたときは資産の「商品」勘定を増やします。
この2つの方法は、「3分法」とは異なり、仕入れ商品を手元の資産(財産)として記録するため、直感的に理解しやすいと思います。
商品売上
売上の処理を確認しましょう。
3分法では、増加した資産について、収益の「売上」勘定で記録します。
(なお、得意先に渡したリンゴについては、すでに仕入れたときに費用と記録済みです)。
売上原価対立法では、増加した資産について、収益の「売上」勘定で記録するのは、3分法と同じです。
異なるのは、費用の計上タイミングです。
得意先に渡したリンゴについては、仕入れたときにその全額を資産の「商品」勘定を用い記録したので、
売上げた分の200だけ、資産から費用へ振り替えます。
(なお、仕入れたときは、その全額を資産の「商品」勘定を用い記録していました)。
分記法では、得意先に売上げたリンゴについて、売上げ分の200を資産から費用へ振り替えるのは、売上原価対立法と同じです。収益金額を純額で記録する点が異なります。収益金額とするのは、販売金額から仕入原価を差し引いた利益だけです。
このとき「商品売買益」勘定を使います。
これは有価証券を取得し、それを売却したときの記録の方法と同じです(参考:
有価証券売却損の仕訳 )。
3分法では、増加した資産について、収益の「売上」勘定で記録します。
(なお、得意先に渡したリンゴについては、すでに仕入れたときに費用と記録済みです)。
売上原価対立法では、増加した資産について、収益の「売上」勘定で記録するのは、3分法と同じです。
異なるのは、費用の計上タイミングです。
得意先に渡したリンゴについては、仕入れたときにその全額を資産の「商品」勘定を用い記録したので、
売上げた分の200だけ、資産から費用へ振り替えます。
(なお、仕入れたときは、その全額を資産の「商品」勘定を用い記録していました)。
分記法では、得意先に売上げたリンゴについて、売上げ分の200を資産から費用へ振り替えるのは、売上原価対立法と同じです。収益金額を純額で記録する点が異なります。収益金額とするのは、販売金額から仕入原価を差し引いた利益だけです。
このとき「商品売買益」勘定を使います。
これは有価証券を取得し、それを売却したときの記録の方法と同じです(参考:
有価証券売却損の仕訳 )。
期末_決算整理
期末の決算の処理を確認しましょう。
3分法では、期中仕入処理したうち、売れ残ったリンゴ1つを費用の「仕入」勘定から資産の「商品」勘定に振り替え、翌期に繰り越します。
これに加え、「商品」勘定の期首残高をすべて売れたとみなし、「仕入」勘定に振り替えます(次で補足)。
売上原価対立法では、決算整理は必要ありません。
期中仕入れたときに資産の「商品」で記録し、売り上げの都度、資産の「商品」勘定から費用の「売上原価」勘定に振り替えているからです。
分記法も、決算整理は必要ありません。
期中仕入れたときに資産の「商品」で記録し、売り上げの都度、資産の「商品」勘定を減らし、売上代金との差額を「商品売買益」勘定を用いて記録するからです。
3分法では、期中仕入処理したうち、売れ残ったリンゴ1つを費用の「仕入」勘定から資産の「商品」勘定に振り替え、翌期に繰り越します。
これに加え、「商品」勘定の期首残高をすべて売れたとみなし、「仕入」勘定に振り替えます(次で補足)。
売上原価対立法では、決算整理は必要ありません。
期中仕入れたときに資産の「商品」で記録し、売り上げの都度、資産の「商品」勘定から費用の「売上原価」勘定に振り替えているからです。
分記法も、決算整理は必要ありません。
期中仕入れたときに資産の「商品」で記録し、売り上げの都度、資産の「商品」勘定を減らし、売上代金との差額を「商品売買益」勘定を用いて記録するからです。
このように、決算整理を行えば、3つの方法の「商品」と「利益」は同じになります。
また、3分法と売上原価対立法は、勘定科目に違いはあるものの費用・収益・利益の金額に違いはありません
(3分法での「仕入」勘定は、財務諸表を作成するときには「売上原価」勘定に表示を変えます)。
違いがあるのは、費用と収益を総額または純額で記録するのかとその記録のタイミングです。
このように、決算整理を行えば、3つの方法の「商品」と「利益」は同じになります。
また、3分法と売上原価対立法は、勘定科目に違いはあるものの費用・収益・利益の金額に違いはありません
(3分法での「仕入」勘定は、財務諸表を作成するときには「売上原価」勘定に表示を変えます)。
違いがあるのは、費用と収益を総額または純額で記録するのかとその記録のタイミングです。
当たり前ですが、記録の方法が違うことで最終的な財務諸表が違えば、記録の方法を自社にとって都合のいいように選択できます。
これでは、財務諸表が実体を表さず使い物になりません。したがって、一度選択した記録方法はむやみやたらに変更できないことになっています
(Wikiへのリンク:継続性の原則 )。
そもそも、分記法は損益計算書から利益率が計算できません。費用と収益を純額で把握するからです。
したがって、八百屋のようにモノを仕入れ販売する事業を分記法で記録しても、使い物になりません。
損益計算書をみても収益性(売上高総利益率)がわからないからです。
一方、有価証券の売買取引のような金融取引などでは、数パーセントの差益を得ること自体が目的です。
期中の売買代金の総額を記録するよりはむしろ、利益(差益)がいくらだったのかだけを表示する方が実態を表すことになります。
まとめ
3分法
商品の売買について、仕入(費用)勘定、売上(収益)勘定、商品(資産)勘定の3つの勘定で処理する方法です。
3分法のポイントは「仕入」が資産ではなく費用です。
決算整理仕訳がないと、売上原価の算定ができません。
期中、仕入時にP/Lの費用である仕入勘定が増加することを通じて当期純利益が動き、
B/Sの繰越利益剰余金もそれに合わせて動きます。
分記法
商品の売買について、商品(資産)勘定、商品売買益(収益)の2つの勘定で処理する方法です。
売上原価対立法
商品を仕入れたときは商品(資産)勘定で処理し、商品を販売したときに売上(収益)勘定で処理するとともに、
その商品の原価を商品(資産)勘定から売上原価(費用)勘定に振り替える方法です。